2018/06/08

文系のための「正規化指標」(1)

あらゆる物質は種類や状態によって光の反射吸収透過放射の仕方が異なる。
そうした光に関する物質ごとに異なる性質を分光特性とよぶ。
地球観測衛星で得られた画像の分析ではその分光特性を利用する。

そのような分光特性を用いた分析手法の一つが「植生指標(NDVI)」である。



では、どのように物質の分光特性を知るかというと、
分光光度計(spectrometer)とよばれる装置を使用する。
一般ユーザーは買う必要はないだろう。残念ながら私も持っていない…。

ただし、物質の分光特性を知りたいという要望はあるかもしれない。
そういう時に便利な情報が米国地質調査所(USGS)のホームページ。
USGSSpectral Library というところで情報が公開されているので参考にしてみる。

USGS Spectral Library Version 7

残念ながら日本語のページは無いのだが…それほど難しい英語でも無かろう。
このページに入ると何やら表みたいのがあって、
Plotの項目をクリックすると該当する物質の反射強度を知ることができる。

初めて見た人にとっては見方が解らないかもしれない。
一応、分類がされているので、興味のある対象を絞り込むこともできる。
Categoryと書かれた部分のアイコンをクリックすると以下の項目が出てくる。

  • Artificial Materials(人工物)
  • Coatings(塗膜剤)
  • Liquids(液体)
  • Minerals(鉱物)
  • Organic Compounds(有機化合物)
  • Soils and Mixtures(土壌と混合物)
  • Vegetation(植生)
  • Wavelength and Bandpath(波長とバンドパス)

とりあえず、「Vegetation(植生)」を選択すると、
植生に関わる分校特性のデータが抽出されて、一覧に表示される。
見てみると、誰でも知っているような花のパンジーのデータもある。

さて、リモートセンシングの教科書ではアメリカヤマナラシが出てくる。
英語では「Quaking Aspen」。私は植物について何も知らないのだが、
ハコヤナギともよばれる落葉広葉樹らしい。

さっそく、この植物の分光特性を検討してみる。


出典:Kokaly, R.F., Clark, R.N., Swayze, G.A., Livo, K.E., Hoefen, T.M., Pearson, N.C., Wise, R.A., Benzel, W.M., Lowers, H.A., Driscoll, R.L., and Klein, A.J., 2017, USGS Spectral Library Version 7: U.S. Geological Survey Data Series 1035, 61 p., https://doi.org/10.3133/ds1035

アメリカ・ヤマナラシの分光特性を見てみると、
可視領域では緑色光(0.49−0.57μm)で反射率が高く、
青色光(0.45-0.495μm)赤色光(0.62−0.75μm)では反射率が高い。

植物の葉が緑色に見えるのは、植物が緑色の光を反射しているから…

と言われているが、より厳密には、植物のクロロフィルの働きによる。
クロロフィルは光を使って水を分解してエネルギーを作り出し、
その過程で発生した酸素を大気中に放出する。いわゆる、光合成

このクロロフィル青色光と赤色光を吸収し、
緑色の反射率が相対的に高くなるために、植物の葉は緑色に見える
また、光合成のエネルギーには赤色光が使われることが知られている。

さて、次に注目するべきは近赤外光の帯域(0.75−1.4μm)である。
ちょうどこの領域に入った途端、反射率が急激に高くなっている。
つまり、植物の葉は近赤外光を吸収せずに反射させるのである。

実は、植物の葉は光をエネルギーとして必要とするけれど、
近赤外光になるとエネルギーが強すぎて、自らを傷つけてしまうため、
近赤外は反射するのである。これは光合成が活発であるほど顕著である。

つまり、赤色光をしっかり吸収し、近赤外光をしっかり反射するということは、
植物が必死になって光合成を行っているということを意味する。
つまり、元気な植物を見分けるための指標となる。

ということで、これを実際にリモートセンシングで試してみる。
ここまでの話から必要となる波長域は赤色バンドと近赤外バンドが使われる。
この二つのバンドを使って行われる分析手法が「植生指標(NDVI)」である。

NDVI = (NIR - RED) / (NIR + RED)

赤色光に対する近赤外光の反射率を評価しているだけである。
この式によって計算されたNDVIは0〜1の値をとり
光合成が全く行われていない状態では0に近づく

ということで、実際にやってみる。
Landsat 8 の場合にはバンド4バンド5が相当する。
GEEで実行することは極めて簡単。

まず、検索バーからLandsat 8ImageCollectionを検索してインポートし、
インポートしたImageCollection の名前をlandsat8としておく。
そのうえで、可視化パラメータを以下のように設定して準備する。

var vegPalette = {
  palette:['red', 'blue', 'yellow', 'green'],
  min:0.0,
  max:0.3
};

var trueColorParam = {
  bands: ['B4', 'B3', 'B2'],
  gamma: 1,
  min:5000,
  max:12000
};

場所はどこでも良いのだけれども、とりあえず、平城宮跡を中心とし、
2016年5月1日〜2016年9月30日までの期間を範囲とすることにする。
以上の条件で画像を抽出する。


// 時間とWRS-2でフィルタリングし、近畿圏の画像を取得する。

var l8filtered = ee.Image(landsat8
    .filterDate('2016-01-01', '2016-12-31')
    .filterMetadata('WRS_PATH', 'equals', 110)
    .filterMetadata('WRS_ROW', 'equals', 36)
    .sort("CLOUD_COVER")
    .first());

処理はいたって簡単。以下の二行で終了。

// NDVIの計算と表示
Map.centerObject(l8filtered, 10);

var ndvi = image.normalizedDifference(['B5', 'B4']);

Map.addLayer(l8filtered, trueColorParam, 'True Color');
Map.addLayer(ndvi, vegPalette, 'NDVI');

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